2016 11/23

 というエントリを以前書いたが、最近もうひとつ別の要素も大きく関わっているのではないかと思うようになった。

 これはニセ科学に騙されているとか不安商法に踊らされているというよりも――その要素は実際あると思うが――ある種の呪術であり、自ら信じたいのではないかと。

 そのベースになる考え方はすでに一度書いている。

 子供の知的発育は非常に重大なことである。にも関わらず、現実的で有効な対処法は存在しない。存在しても、それをそうと確信することはできない。まじないが流行る絶好の問題だ。

 流行するまじないは、実行可能であり、適度なもっともらしさと困難さを備えていなければならない。

 実行は可能だ。大抵の家庭にはテレビがあり、当然ついていることもよくある。実行可能でも負担が大きすぎて生活に支障が出るようではだめだが、そんなことはない。テレビを消しても死なないし、真剣に困ることもまずない。

 逆にあまり簡単すぎるのも、ありがたみが無くなるので駄目だ。これもクリアする。テレビを見たがる子供をなだめたり、自分で相手をしたりするのも、「ちょっと頑張ったな」と思えるほどの負担ではある。

 ……完璧に当てはまっているように思える。

 子供の知能という重大な事柄が、遺伝のようなもう変えられない要因や、まだ誰も解明していない偶然の要因に左右されているというのは不安だ。だからそれを制御しうると、確実にプラスになることをしていると信じて安心したいのだ。たとえ根拠薄弱だと知っていても。

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2016 11/1

『母がしんどい』★★

 田房永子著。『キレる私をやめたい』がよかったので。そりゃこんな母だったらしんどいやろな。

『察しない男 説明しない女 男に通じる話し方 女に伝わる話し方』★

 五百田達成著。ありがちだけどわかりやすくていいのでは。内容には関係ないが五百田(いおた)という名字初めて聞いた。

『SOFT SKILLS』★★★★★

 個別には特別すごいと思った話はないが、全体として過去に類例のない感じの本でとても面白かった。プログラマには是非おすすめ。

『習慣の力』★★★★

 チャールズ・デュヒッグ著。『SOFT SKILLS』で紹介されていたので読んだ。終盤ちょっと話が広がりすぎる感あるけど、啓蒙書としても実用(自己啓発?)書としても、かなりいいと思う。

『ネオ寄生獣』★

 萩尾望都『由良の門を』以外はそこまでは印象に残らず。しかしそれだけでも価値あり。

『人はなぜ格闘に魅せられるのか――大学教師がリングに上がって考える』★★

 ジョナサン・ゴットシャル著。良い。内容は例によってshorebird先生にお任せ。

『物理学者はマルがお好き』★★★

 ローレンス・クラウス著。『宇宙が始まる前には何があったのか?』から著者つながりで。いい啓蒙書。

『行動経済学の逆襲』★★★

 リチャード・セイラー著。ナッジの人。行動経済学そのものの部分は既知だが、それ以外の自伝的部分が面白かった。

『蒼路の旅人』★★★★

 上橋菜穂子著。最終シリーズ開幕? って感じ。かなり面白い。

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2016 9/1

『東方外來韋編 Strange Creators of Outer World. 弐』★

 ZUN他著。東方雑誌2番目。まだ「お布施と思って」レベルか。

『ストーナー』★★★★★

 ジョン・ウィリアムズ著。確かに地味な小説のはずなのに、なんとも面白い。自分も所帯持ちとなったからか、うまくいってない家庭の描写とか、なんか鬼気迫る感じ。

『濃縮メロンコリニスタ』★

 ニャロメロン著。独特のギャグセンス。Kindle Unlimitedでも読める。

『星界の紋章』★★★

 森岡浩之著。名前だけ知ってた古典。1-3巻まで読む。別タイトルで続きがあるようだが、とりあえずここまでで一区切りらしい。いろいろ尖ってて古典になるだけのことはあると感じる。

『女帝』★★★★★

 倉科遼著、和気一作画。名前だけ聞いたことあったので、Kindleの90%OFFセールで期待せずに買った。一言で表せば「R-18の朝ドラ」。中だるみするところもないではないが、非常に面白かった。

『キレる私をやめたい~夫をグーで殴る妻をやめるまで~』★★★

 田房永子著。『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』からの連想。結構面白い。他のも読んでみようか。

『幸せになる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教えII』★★

 岸見一郎著、古賀史健著。前著が面白かったので。やはり自分には「自己欺瞞という非常に重要なテーマに関する、一昔前の惜しい解釈」と映る。自己啓発として有効かどうかは別問題として。

『国民クイズ』★★★★

 杉元伶一著、加藤伸吉著。大学生の頃読んだ覚えがある。Kindle Unlimitedで読み直した。もう時代も違うし難点は多いけど、一度は読んで損なしと思う。

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2016 8/1

『ゲノム革命―ヒト起源の真実―』★★

 ユージン・E・ハリス著。地味ながらよい。

『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』★★★

 永田カビ著。pixivで知った。レズ風俗は話の枕でメンヘルに関する自伝エッセイ。絵も文もうまくて意外な面白さ。

『メンタルが強い人がやめた13の習慣』★★

 エイミー・モーリン著。ありがちだけどいいまとめ。

『ヤバすぎる経済学』★★★

 スティーヴン・D・レヴィット著、スティーヴン・J・ダブナー著。前著の続きではなく著者達のブログのまとめ。でも、その雑多さが面白い。

『日本会議の研究』★

 菅野完著。流行り物。

『世界史を変えた薬』★★

 佐藤健太郎著。個別にはほとんど知ってる話だったが、こういうの好き。

『コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか』★

 旦部幸博著。雑学。

『楽観主義者の未来予測: テクノロジーの爆発的進化が世界を豊かにする』★

 ピーター・H. ディアマンディス著、スティーヴン・コトラー著。最近よくある感じではあるが。

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2015 7/26

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

 岸見一郎著、古賀史健著。源流というだけあってなかなか面白い。ほとんどは単なる自己啓発の屁理屈のように見える反面、自己欺瞞の考察として先進的な部分もあるように見える。

(おすすめ本書評まとめ2014年11月版)

 以前このように評したことがあるが、これだけじゃ意味がわからないのでちょっとだけ追加しておく。

 アドラー心理学で一番問題なのは「個人をそれ以上分割できない存在であると考える」というところだろう。これは脳のモジュール性の観点からの自己欺瞞理解とは正反対だ。

 たとえば、引きこもりの「彼」は「本当」は引きこもりを止めたくないのだ、というようなことを言うわけだが、

  • 長期的利益を司る部分は、引きこもりを止めたいと思っている
  • 短期的利益を司る部分は、引きこもりを続けたいと思っている

 とすれば、これ以上の説明はない。このどちらかが「彼」の「本当」の意見だと考える必要はどこにもない。

 この引きこもりに「ダイエット中なのに夜中に起き出して冷蔵庫をあさる人」以上に、何か本質的に問題があるとかおかしいとか考える必要はない。

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2015 7/12

ヒトはなぜ笑うのか

 マシュー・M・ハーレー著、レジナルド・B・アダムズJr.著、ダニエル・C・デネット著。原題”Inside Jokes”(『ジョークの内幕』)。

 やっと読んだ。詳しい内容については例によってshorebird先生にお任せ。

 私もそこでほぼ全内容を知っていたので、今回初めて思ったわけではないが、これはやられたと思った。

 以前この記事で少しだけ触れているが、「笑い」――単に笑顔や笑い声のことではない――は、人間精神の最大の謎のひとつであった。

 そしておそらくそれ故に、人間性の本質とも見なされてきた。たとえば、ほんの一例だが、最近アニメ化された『寄生獣』で、パラサイト田村玲子の精神が人間らしくなってきたことの表現のひとつとして「笑い」が選ばれている。*1

 しかし著者らは「笑い」ついて、残りは全て細部の問題だと言えるような「正解」に辿り着いてしまっているように見える。進化に関してダーウィンの『種の起源』がそうであるような意味で。

 個人的には、死ぬまでに知りたかった重大疑問のひとつが解決してしまって、すごく嬉しいと同時に少し寂しい気分だ。

*1:この本の知見に沿って考えるならば、人間に混じってバレずに暮らせるほどに人間的な知性を備えながら、笑いを理解せずにいるパラサイトというのは、哲学的ゾンビと同じく、細部までよく考えていないから可能に思えるだけの幻想ということになろう。

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2015 7/11

『素数の音楽』★

 マーカス・デュ・ソートイ著。リーマン予想本。

『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』★★★★★

 松尾豊著。UEIのshi3zさん経由。すごくわかりやすくてためになる。

『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』★

 小林雅一著。上のものほどではないがいい。タイトル残念。

『マキャベリアンのサル』★★★

 ダリオ・マエストリピエリ著。詳しい内容はshorebird先生にお任せ。

『人の目なんか、気にしない!―「いい人」が犯す9つの勘違い』★

 デューク・ロビンソン著。まあ、ありがちだけれども。サンマーク出版から連想されるよりはまとも。

『徳の起源―他人をおもいやる遺伝子』★★★★★

 マット・リドレー著。何かで思い出した。相当古い本だけど、今でもぱっと見特に問題はない。

『太陽の簒奪者』★★★★★

 野尻抱介著。日本のSF小説として久しぶりにとても面白かった。単行本としては普通の長さながら、ダイジェストっぽく感じる濃密さ。あと一歩なんか尖ったオリジナリティあれば完璧だった気はするが、十分面白い。

『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れを取る技術』★★★

 下園壮太著。いいと思う。

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2015 5/4

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学

 なかなか面白い。私がドーキンス兄貴の『神は妄想である』等の主張に感じている不満をうまく代弁してくれている感じがある。

 shorebird先生の指摘通りグループ淘汰に関して理解が間違っているのが残念だが、メインの主張の価値は損なわれていないように思われる。

 私の理解で一番重要な要点をまとめるとこうだ。

 道徳は単に高いか低いかの二元論というわけではなく、5ないし6の別々のチャンネルを持つものである。そしていわゆるリベラルは、単に道徳基準が高いのではなく、いくつかの道徳基準をむしろ積極的に眠らせている。

 6つの軸を簡単にまとめると以下のようになる。保守派は6つ全てを重視し、リベラルは前半3つだけを重視し、後半3つを軽視する。さらにリバタリアンは最初の2つしか重視しない。

元の適応課題 現代での現れ方
公正/欺瞞 相互協力の維持 機会平等・ただ乗り防止
自由/抑圧 アルファメイルの掣肘 権力抑止
ケア/危害 子供の保護 福祉・結果平等
忠誠/背信 グループ維持 市民道徳
権威/転覆 階層的グループ維持 市民道徳
神聖/堕落 感染の忌避 公衆衛生・市民道徳

 最初の2つは比較的わかりやすい。

 フリーライダーを野放しにしてはどんな社会も成り立たないので、公正/欺瞞を無視する立場はありえない。

 権力抑止がないのは、独裁者とその取り巻きしか嬉しくないので、少なくとも民主主義国では、やはり自由/抑圧を無視する立場はありえない。

 ケア/危害もやはりまったく無視する立場はありえないものの、福祉の増加は、それを実現する権力(政府)の肥大とフリーライダーの増加に繋がるので、軽視する立場がありうる。それがリバタリアン。

 忠誠/背信と権威/転覆はやや似ている。ある程度重視されることは、どんな社会にも社会資本として必要と思われるが、公正/欺瞞や自由/抑圧と抵触し、行き過ぎると身びいき・ナショナリズムとなりうるのでリベラルは軽視しがち。

 神聖/堕落については、ちょっとわかりにくい。現代先進国では、元々の適応課題である感染忌避としての役割はほぼ失っていて、よそ者嫌い(人種差別)や自分のグループや国を神聖とする宗教やナショナリズムの形で現れる。言うまでもなく保守派が重視する。

 後半3つはどれも行き過ぎるとナショナリズム・全体主義・権威主義であり、粗視化すると「保守派は全体主義的だ」というリベラルから見てのステロタイプ的な見解と同じになってしまうわけだが、これは主張の欠点ではなく、利点であろう。

 だんだん大ざっぱにしていったとき、直感的・ステロタイプ的な見方と違うものが出てくるとしたら、それは元の理論が間違っているに違いないからだ。

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