『ライフゲイムの宇宙』と『囚人のジレンマ』の二大傑作でうちではお馴染みウィリアム・パウンドストーンの行動経済学本。
それらと同等とまでは言えないが、かなり面白い。
「価格」というものがいかに曖昧模糊とした人間的な構築物であるかということが繰り返し強調される。
この場でただ一言だけ憶えておくならば「ふっかけた方が得」か。
タイトル通り面白いだけでなく実益につなげることもできそうなので、営業や交渉に携わる人は一度読んでおくとよいかも。
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おまけ
ギャンブルにかかる心理の話も。
by 木戸孝紀
tags:科学 経済 書評 心理 歴史
現在某所でトップになっている、痴漢冤罪対策と称するコピペ。数年ごとに流行するデマで、2004年からあるらしい。私もいつかは忘れたが、前回のブーム時には見た覚えがある。
この現象は、昔の「悪魔を退散させる呪文」とか、子供に流行する「口裂け女に話しかけられた時のおまじない」といったものの、現代・大人版と言えるであろう。脅威を制御しうると信じて安心したい人間心理の発露である。
何の本で得た知識か忘れたが、このようなまじないが発生し、流行するにはいくつかの条件があるようだ。下に適当に並べてみるが、こうして見ると、このコピペは実に良くできている。数年ごとに大流行するだけの理由はあると思える。
1「稀で深刻な脅威である」
日々誰もが遭遇するような現実の脅威なら、いい加減な呪文やまじないに頼ってなどいられない。頼る必要もないだろう。まず経験者の話を聞きに行けばいい。
噂には聞くが、自分や身近な人が実際に遭遇したことはないという程度の、稀な発生率である必要がある。おそらく痴漢冤罪の発生率はこの条件を満たす。
次に、当然だが深刻でない脅威ならそもそも制御したいという心理もそれほど強くならない。痴漢冤罪によって被る被害は、間違いなく深刻と言ってよいだろう。
2「現実的で有効な対処法は存在しない」
ホモ・サピエンスは、概ね現金で抜け目ない生きものだ。当たり前だが、そんなものがあれば、それで対処するのだ。
そして、痴漢冤罪はこの条件も満たす。ブームの度に言われていることだが、現実的で有効な方法は、今のところ実在しないと思われる。日本の司法制度・風土および満員電車という現実は、どちらも個人が一朝一夕で変化させうるものではない。
3「まじないは適度なもっともらしさ・困難さを備えている」
もっともらしくなければいけないのは当たり前と言えば当たり前だが、もっともらしければいいというものでもない。
まず、実行可能でなければならない。誰も憶えられないような呪文や、誰も実行できないようなまじないが流行ることはありえない。実行可能でも現実生活の負担に感じるほど難しくては駄目だ。しかし、逆にあまり簡単すぎるのも、ありがたみが無くなるので駄目だ。
昔だったら聖書の章句を暗唱するとか、今だったら法律の条文を二つや三つ暗記するとか「ちょっとやってみるか」と思えるほど簡単だが「ちょっと頑張ったな」と思えるほどには難しい、という絶妙な複雑さが要求される。
おまけ
電車で妖怪で脅威で卑猥というとこれか。
by 木戸孝紀
tags:デマ 社会 呪術 心理 人間 都市伝説
『まっとうな経済学』と同著者。 原題は『生活の論理:不合理な世界の合理的な経済学』ぐらいの意味合いで、今回もかなり面白い。
『まっとうな経済学』は『ヤバい経済学』と連続して紹介したけど、奇しくもまた『超ヤバい経済学』に連続しての紹介。
それぞれの位置づけも、やはり前回と同じで、変わった話題に経済学的視点を適用してみる『超ヤバい経済学』に対して、こちらはひたすら“インセンティブ”という視点に絞って地道にまっとうな話を続ける感じ。
最後の方の、選挙民の合理的な無知と、先進国の農業補助金のように数的には小さい集団の利権が通ってしまいやすい理由のあたりの話は重要で、他にあまりわかりやすい説明を見た覚えがない。オススメする。
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おまけ
人間は面白い。
by 木戸孝紀
tags:科学 経済 書評 心理 人間 政治
UFOは一時期に比べてめっきり人気なくなったので時期外しの感はあるけど、わりといい本だったと思う。『抑圧された記憶の神話』は怖すぎて読めないという人にいいかも。
アブダクティーの研究から見えてきたいちばんのポイントは、わたしたちの多くは神のような存在とのコンタクトを求めていて、エイリアンは、科学と宗教との矛盾に折り合いをつける方法なのだということだ。わたしぱ、ユングの「地球外生物は科学技術の天使である」という言葉に賛成する。
アブダクションを信じることによって得られるものは、世界じゅうの多くの人たちが宗教から得ているものとおなじであるのは明らかだ。人生の意義、安心、神の啓示、精神性、新しい自分。正直言って、わたしもいくらかほしいと思うものもある。アブダクションの信奉は、事実ではなく信仰にもとづいた宗教の教義のひとつだと考えることができそうだ。実際、多くの科学的なデータが、ビリーバーは心理的な恩恵を受けていることを示している。彼らは、そういうものを信じていない人より、幸せで健康で人生に希望を持っている。わたしたちは、科学や技術か幅をきかせ、伝統的な宗教か批判される時代に生きている。天使や神に宇宙服を着せ、エイリアンとして登場させたら納得がいくのではないだろうか?
わたしたちは、スピリチュアリズムや、心の平穏や、不思議な力や、人生の意義を求めている。ベルトルト・ブレヒトが戯曲『ガリレイの生涯』のなかで語ったように、「わたしたちを主人公にした大宇宙という名の劇が書かれていて……こんなつまらない星のあわれな役よりもっとすばらしい役が用意されているのだと励ましてくれる」なにかか必要なのだ。エイリアンによる誘拐は、科学技術の時代における新しい宗教への洗礼なのかもしれない。
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おまけ
by 木戸孝紀
tags:UFO 記憶 社会 書評 心理
shorebirdさんのところで『Spent.』の連載やってるからか、誰かがグリーやモバゲーを下流食いと揶揄して物議を醸した話に関連して、考えてみたくなった。
上記エントリの続きでもある。この時の要点は、MMORPGのようなゲームが、一種の人間性ハックになっているということだった。
あの時代にはまだ、現在ソーシャルゲームと呼ばれているものはなかったが、現在のアイテム課金を主な収入源とするゲームは、こうした MMO の時代のノウハウをさらに洗練させたものだろう。
そもそも人間は何のために消費をするのか、ということで、わりと見過ごされて来たのは“見せびらかすため”という部分。
アイテム課金というのはこの視点抜きでは、ありえない。例えば、1人用ファミコンRPGのアイテム課金に何十万円もつぎ込む、というシチュエーションを想像すれば、それがどんなに馬鹿らしいかは誰にでもわかる。
対してゲーセンなら、たとえ1人用のゲームであっても、そのアイテム課金にコイン何十万円も注ぎ込む、というシチュエーションは、十分ありうる。ゲーセンには観客がいるからだ。
家庭用のゲーム機でも、友達等が遊びに来れば観客はできるし、課金することもありうる。しかし、毎日誰か来るような家は稀だし、仮に来ても課金の仕組みが実在しないのだから誇示的消費は不可能だ。
従って昔の――今でもほぼ同じだが――家庭用ゲーム機における見せびらかし的消費は、ソフト自体を沢山購入するということぐらいかありえなかった。
MMOの時代には、常時観客がいる状態になったので、課金の需要はあった。しかし、ゲーム提供者が、まだそのことに気づいていなかったので、ゲーム外のリアルマネートレードという形で、見せびらかし的消費を行うしかなかった。
そして、ついにゲーム提供者側が、見せびらかし的消費の潜在価値に気づいて現在のアイテム課金のソーシャルゲームができた。大雑把にいえば、公認リアルマネートレードがデフォルト装備されている MMORPG のようなものが。
まとめると、アイテム課金のソーシャルゲームというのは、 MMOよりさらに一歩進んだ人間性ハックだということだ。
しかし、MMOが単純に麻薬だとは言えない、というのと同様、ソーシャルゲームが、普通の経済活動より、何か罪深いとか低級だとは、私は考えない。
むしろゲームという歴史の浅い新しい存在が、銀行が豪華なビルを建てたり、宝石屋がダイヤのブランド戦略を打ったりするのと同等の、普通の人間の経済活動のレベルまで追いついたのだと思う。
そして、普通の経済活動というものが、特定の誰かの価値観から見て、良いことばかりであることは滅多にない。それだけのことだと思う。
おまけ
普通の人間の音楽活動。
by 木戸孝紀
tags:ゲーム 経済 心理 進化
我々が恐れなければならない唯一のものは、恐怖そのものである。
(フランクリン・ルーズベルト)
ルーズベルト大統領はともかく、この言葉は好きだったのに、しばらく積んでたのを後悔。これは素晴らしい。超いい。
と並んで、一家に一冊配布を義務づけたいレベル。
- 進化心理学本
- メディアリテラシー本
- 科学リテラシー本
- 社会問題リテラシー本
いずれの視点から見ても最高クラス。それぞれ同等以上の内容をもつ本はもちろんあるけど、一冊に濃縮した感じ。その割に価格も低めでコストパフォーマンスも最高。
例の『The Cove』見に行く人は、これ読んでからにしてほしいかも。
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おまけ
なんでもないものが恐怖の象徴となるたったひとつのルール。
by 木戸孝紀
tags:マスコミ メディア 社会 書評 心理 進化 政治
『健康帝国ナチス』に出てくる言葉。ヘルベルト・メルテンがどういう人かも、どういう文脈で言ったのかも知らないのだが、なかなかうまい言葉だと思う。ちょっと前に読んだ『平気でうそをつく人たち』とも共通する話。
要は「悪」と一口に言ってもいろいろあって、なにも北斗の拳のモヒカンがやるようなヒャッハー的わかりやすい悪ばかりではなく、もっと微妙・巧妙でしかもありふれた悪があるということ。
『平気でうそをつく人たち』の内容をうまいことまとめているところがあったので引用させてもらう。
- 邪悪な人たちは、自身の罪悪を認めない。
- 多くの場合、堅実な市民として生活している。
- 彼らの犯罪は隠微であり表に現れない。
- 自分自身には欠点がないと思い込んでいる。
- 自分自身の罪悪感に耐えることを徹底的に拒否する。
- 自分の行為を隠蔽するために他人に罪を転嫁する、スケープゴートにする。
- 世の中の人と衝突すると、必ず他人が間違っているために問題が起こると考える。
- 自分自身の欠陥を直視する代わりに、他人を攻撃する。
- 自分自身の中の病を破壊する代わりに、他人を破壊しようとする。
- 道徳的清廉性を維持するために絶えず努力する。
- 他人が自分をどう思うかという点に鋭い感覚を持っている。
- 善人であろうとはしないが、善人であると見られることを強烈に望んでいる。
- 自身の邪悪性を認識していないのではなく、その意識に耐えようとしない。
- 邪悪な人の悪行は罪の意識から逃れようとして行われる。
- 社会的な対面や世間体を獲得するために人並み以上に奮闘し努力する。
- 地位や威信を得るためには熱意を持って困難に取り組むこともある。
- 自身の良心の苦痛、自身の罪の深さを認識する苦痛を耐えることができない。
- 自分の正体を照らす光を嫌う。
- 自分中心的な行為が他人にどのような影響を及ぼすのか考えない。
(【読書会】『平気でうそをつく人たち』(M・スコット・ペック) 第48回桂冠塾: 市民はたさん の 普通の感覚?)
キーワードは「嘘」と「正当化」だろうか。頭――身体の首から上という意味ではなく理性の意――がおかしいわけではないから、自分が嘘をついていることはちゃんとわかっている。
しかし、「俺が善意で嘘をついてやってるのに信じようとしないなんて、なんという心のねじ曲がった奴だ許せない!」みたいな独特の正当化をする。
ネット世界ではしょっちゅう見かける話だし、今の首相――とか書いてるうちに前首相になってしまいそうだが――なんかもそれかもしれない。ひとつ頭に置いておくといいのではないか。
おまけ
by 木戸孝紀
tags:言葉 心理 倫理
「動物福祉」にたずさわる「自閉症」の「女性」の「共著」。……何このスピリチュアルアンテナにビンビンくるキーワードの羅列!
「おお、彼女こそ動物たちと魂の触れ合いができる天使のようなピュアな心の持ち主! 環境ホルモンまみれのマクドとかむさぼり喰ってる愚民ども今すぐ有機野菜買わないと地獄に堕ちるぞ!」
みたいな内容だったらどうしようと警戒しながら読み始めたので、意外にも大変まともな内容でものすごく得した気分。
イルカ高知能説のなごりがわずかに見られるが、そういうのに釘を刺しているところもあるし、全体的には全然許せるレベル。
動物の本としても脳科学の本としても自閉症の本としても、それぞれ超一級品。非常にオススメです。
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おまけ
by 木戸孝紀
tags:自閉症 書評 心理 進化 動物 脳