で知って、面白そうだと思って借りてきた。なかなか面白かった。以下は私の超要約。
- 1800年ぐらいまでの地球の標準的な人類は、1人あたりで見ると、狩猟採集生活をしていた新石器時代と比べて、有意に豊かになっていたとは言えない。ずっと生存スレスレだった。
- その理由は、技術の緩やかな進歩などによる資源増加は人口の増加で、気候変動や疫病による不作などによる資源減少は人口の減少で、すぐに調整されるからだ。
- 中国や日本ではなくイギリスで産業革命が起きた理由は、識字・勤勉性などの文化的・遺伝的素質を持った中産階級が多産であり、その子孫が人口再生産に成功しなかった貧困層に取って代わって、長い間に全体にそれを広めたからだ。
- 現代の豊かな国と貧しい国を分ける最も決定的な要因は1人あたりの労働者の質であり、単純にカネを注ぎ込むような援助は無意味である。
1, 2までは概ね当たり前の話と言っていいのではないかと思う。
問題になりそうなのは3以降だが、3はどうだろう。
たとえば何らかの歴史のifで、日本が戦国時代にキリスト教化していたとする。教義的に武家も、家格を維持しようとした現実の歴史よりも多産であったとする。その次男三男が、商人や農民になったり、その家を養子で継ぐような傾向が大きく、江戸時代の間中ずっと続いていたとする。
もちろん石炭資源の問題などもあるから、だからといってイギリスより先に日本で産業革命が起きたとも思えないが、そうなりうるような傾向は確かに強まったのではないかと思われる。
そういうわけで、3もほぼ同意できる。
ただ、かなりあからさまに社会生物学的なこの観点は、社会生物学に対する無条件の拒否反応が緩和されつつある今日時点でも、一部の人たちにとって衝撃的なものと受け取られるだろうと思う。
それが産業革命の歴史のifだけならともかく、原題は『援助よさらば――簡潔な世界経済の歴史』であって、4の主張に繋がっていることを考えればなおさらだ。
現在の援助のあり方に問題があり、かなりの部分がほとんど無駄であろうという意見には、概ね同意する。経済学者はもっといい援助のやり方を提案できるだろうし、現にされている。
貧しい国の1人当たりの労働者の質が低いという指摘も、もちろん事実であろう。労働力が安くて質が高かったら、援助するまでもなく、企業が争って進出して発展するだろう。
だがしかし、その提案より先に指摘が来ている場合、どんなに本人に他意はなくても、善意の人の誤解・悪意の人の悪用は避けられないように思われる。1,2,3の部分と4の部分を分けて、それぞれ別の本にすれば良かったのではないかと思った。
関連リンク
- アルフレッド・W.クロスビー『ヨーロッパ帝国主義の謎―エコロジーから見た10~20世紀』
- アルフレッド・W・クロスビー『数量化革命 ヨーロッパ覇権をもたらした世界観の誕生』
- ジャレド・ダイアモンド『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの』
- ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』
- ポール・コリアー『最底辺の10億人 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?』
- 『ヤバい経済学』とセットで読め! ティム・ハーフォード『まっとうな経済学』
関連書籍
おまけ
マルサスつながり。
コメント