最近読んだ本、またはずっと紹介したいと思っていた本の中から、個別エントリにするタイミングがなさそうなものを、まとめて一挙紹介。
★は1-5個でオススメ度。人に薦める価値がまったくないと思うものはそもそも取り上げないので、1個でもつまらないという意味ではない。
『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』★★★
オリヴァー・サックス著。『動物感覚』でこれだけ読み落としていたことに気づいた。『レナードの朝』は好きで、『妻を帽子とまちがえた男』も読んだことがあったのに、不覚。かなり面白い。
『官能小説用語表現辞典』★
永田守弘著。例文までちゃんと出てきて面白い。これ見て、昔官能小説自動生成ソフト七度文庫というものがあったのを思いだしたが、あれってどのくらい使い物になるのだろうか。
『貧困の終焉―2025年までに世界を変える』★★★★
ジェフリー・サックス著。『地球全体を幸福にする経済学』繋がりで読んだ。具体的なエピソードが多いので、読み物としての面白さはこちらの方が上かも。
『WORLD WAR Z』★★★
マックス・ブルックス著。中・短編エピソードを集めて語られるゾンビ世界大戦。ゾンビものが特別に好きなわけではない自分でも一気に読み通せたので、かなり面白い方だと思う。このジャンルが好きな人にはオススメ。
『科学と神秘のあいだ』★
菊池誠著。「ニセ科学」関連で有名な菊池教授。音楽に関する話題が多かったりして、少しイメージが変わった。
『数字オンチの諸君!』★★★★★
ジョン・アレン・パウロス著。リンクぐらい張っておいたことはあったかもしれないが、直接プッシュしたおぼえはなかったのでここで。数学リテラシー本では、まず最初におすすめする一冊。
『地球(テラ)へ…』★★★
竹宮惠子著。『新世界より』を読んだとき元ネタのひとつじゃないかと思った。不適なガキは始末して記憶も抹消とか。エスパーが抑圧側か被抑圧側かで逆だけど。
『アレックス・スタディ―オウムは人間の言葉を理解するか』★
これも『動物感覚』つながりで読む。鳥類の知能をハトとか基準に甘く見たらいかんぜよって感じ。
おまけ
音楽+ニセ科学つながり。これはひどい(笑)。
by 木戸孝紀
tags:コミック 科学 経済 書評 小説
ゴルゴ13の出身は、たびたび話題になるものの、決して明らかになることはない。なぜか?
ある意味では答えは簡単だ。多分あなたもすぐ思いついた通りだ。明らかになってしまったら、いつでも使えて確実に人気のあるネタの一つが無くなってしまうからだ。
しかし、それはあくまで至近要因だ。なぜゴルゴの出身が確実に人気のあるネタなのか?
想像してみよう。ついにゴルゴの真の出身が疑問の余地なく判明した! 実はロシア系中国人で日本とは縁も紫ゆかりもなかった!
あるあ……ねーよ。
そう、誰もそんなことはありえないと知っている。みんな実はゴルゴは日本人――でなくとも、少なくとも日系人とか日本人とのハーフとか――だと知っているのだ。
では、なぜゴルゴは日本人でなければならないか?
いつか一言だけ触れた(参考)が、ゴルゴ13というキャラクターの人気は、戦後日本人の国際政治コンプレックスと切り離して考えることはできない。
いつも無表情でアメリカ大統領やCIA長官を震え上がらせるゴルゴというキャラクターは、メガネでへらへら笑うエコノミックアニマルとしての日本人の自己認識の正確な裏返しだ。
では、もう一度最初の問いに戻って、なぜゴルゴの出身は決して明らかにならないのか?
明らかにしたっていいのではないか、誰もがすでにそうだと知っているのだから。読者が皆そうであることを望んでいるとわかっているのだ。ネタのストックをひとつぐらい減らしても、明らかにしてあげるべきでは?
もちろん、違う。
コンプレックスの補償としての娯楽は、それを楽しみつつ、そうしているということをはっきり自覚させないことが重要だ。
「日本人と断定されたゴルゴ」は、あまりにも日本人の国際政治コンプレックスの代償の要素がはっきりしすぎる。それは、たとえるならギャルゲーに「非モテ御用達」と明記するような自殺行為だ。
- おそらく日本人と思われつつも不明のまま
- 日本人と判明する
- 日本人でないことが判明する
ゴルゴの出身についてのありうる選択肢は、この順番で望ましい。つまり、現状のままがベストだということを、作者はもちろん読者もみんなわかっているのだ。
おまけ
by 木戸孝紀
tags:コミック ゴルゴ13 心理 政治 日本
知る人ぞ知る怪作。タイトルの時点ですでに何かが決定的におかしい。
内容も、輸入雑貨の貿易商を個人で営んでいる井之頭五郎という普通の男が、腹を空かして普通に食事をするというだけ。本当にただそれだけ。
藤子不二雄のSF短編で、食事と性行為に関する羞恥心の概念が逆転した世界に迷い込んでしまう男の話があった。(参考)
その世界では、食事は個体の維持にしか貢献しない利己的な行為だから、一人隠れてこっそり行う恥ずかしいものであり、性行為は集団の維持に貢献する利他的なものであるから、正々堂々とおおっぴらに行うべきである、とされている。
従って、その世界では歩きながらサンドイッチを食べるような気安さで路上性行為が行われ、「食事会」が現実世界における「乱交パーティー」に相当するものになっている。
どうもこれを読んでいると、そのSFは半分正しいのではないかという思いにとらわれる。
つまり、人間がものを食う時は一人なのが自然であり、それを克明に描写する――たとえばこの作品のように――のはエロティックな覗き行為であり、いわゆる普通のグルメマンガというのは、乱交パーティーのような倒錯した変態行為なのではないかと。
おまけ
個人的にはゴローちゃんネタといえばテクテクさんのイメージが強い。
by 木戸孝紀
tags:SF グルメ コミック 久住昌之 谷口ジロー
最近連続していい評判を聞くので、引っ越し準備の息抜きに、1巻を注文して読んだ。確かにすごく面白かった。
大急ぎで2巻も続けて注文しようと思ったらAmazonで品切れになってる。そりゃなるわな。死ぬほど使い古された題材に思えても、ちょっとした工夫と表現力次第でまたすごく面白くなる、という好例かもしれない。
何言ってもネタバレになりそうなので、曖昧な言い方しかできないが、
描写まんべんなくあるので、成人向けというわけではないが、お子様はご遠慮願いたい。大人のマンガ好きはネタバレに出会う前に1巻入手に走れ。好き嫌いは分かれるだろうが、損したとは思わないはず。
(ネタバレになりそうな感想はコメント欄に書いた。1巻読んだ人だけどうぞ。)
おまけ
「夜は自己嫌悪で忙しいんだ」
by 木戸孝紀
tags:コミック 花沢健吾
昔見たあるコマを利用したくて再読したついでに。
禅問答というのは、通俗的には訳のわからん問答の代名詞的に使われていますが、実際にもやっぱり訳のわからん問答です。
いくら「二元論的な思考を乗り越えるための」とかなんとか理屈をつけてみても、結局やってることは
「全然違う! まったく逆! お前は何も悟ってない!」
とお互い言い合って、気圧された方が負けというだけなのです。
……あれ? 意外と現代も変わらないかも。まあとにかく、現代人的な意味での「議論」や「問題」ではないのだということを、ちゃんと理解して楽しむ分には、いいものだと思います。
おまけ
by 木戸孝紀
tags:コミック 宗教 禅 仏教
経由で知る。これは確かに最高級に面白い。
で以前注目したように、『鋼の錬金術師』は、現代少年マンガを薄く広く覆っている「不殺」的発想を一歩破って進んでいるように見える。
このことが、作者荒川弘の農家出身という属性に寄っているのではないかという考えは以前から持っていたが、これを読んで確信に変わった。
- ヒグマの気配に死を覚悟したり
- 珍しい障害を持って生まれた仔牛を実験用に提供するかひと思いに処分するか悩んだり
- 家族がみんな死にかけたり骨折ったり血が出たりする怪我をしたことがあったり
というような経験なくしては、間違いなくハガレンはなかった。
そういうことを考えなくても、単純にエッセイとしても雑学としてもマンガとしても面白い。農業高校の回では『動物のお医者さん』を思い出したりもした。傑作。おすすめします。
おまけ
by 木戸孝紀
tags:エッセイ コミック ハガレン 荒川弘 動物 農業
の続きみたいなもの。
を書くために『野望の王国』を読んでいたら、ヴォルデモート卿にまったく食指が動かなかった理由がわかった。
私がハリポタシリーズで一番好きなキャラは、断然アルバス・ダンブルドアなのだが、途中まで完全無欠の人格者のように描かれていた彼が、なんと
「ぼくたちがホグワーツで魔法を学んだのは魔法使いがマグルを支配する仕組み権力をつかむための方法を学ぶためだったといっていいでしょう!」
みたいな中二病的妄想に捕らわれたことがあったという事実が明らかになる。
もちろん、ある事情で実行には移されないのだけど、これほど魅力的な悪の可能性が目前で絶たれたことを知った後では、つまるところずっと「死にたくないでござる!! 絶対に死にたくないでござる!!」ぐらいのことしか言ってないヴォルデモートなんて……。
たとえるなら「アナキンがダースベイダーにならずに、最後までダースモールがぴょんぴょこ跳ね回ってるスターウォーズサーガ」みたいなものであって、魅力なくて当たり前だ。
おまけ
中二病+魔法→エターナルフォースブリザード→相手は死ぬ
by 木戸孝紀
tags:コミック ハリポタ 小説 野望の王国
のでメモ。
橘:
もし暴力を全て否定するなら国家の秩序も否定しなければならない
なぜなら秩序を保つのは警察力という暴力機構にほかならないのだから
いい暴力と悪い暴力があるというならそのいい悪いは誰が決めるのか…
そんなことも考えず暴力はいかんなどと叫ぶことは自分を支配される側に置くのだということに どうして気づかぬのか
片岡:
大衆が暴力に対して女みたいなヒステリー症状を示す間は日本最大の暴力団である警察と自衛隊を抱えている民自党政府の思うままだ
歴代の首相が全て汚職に関係した前歴をもつ男たちであるという 世界にも例のない腐敗した政治機構は維持されるだろう……
橘:
この世は支配するか支配されるかのどちらかしかない!
支配するか されるかの決定的要因は暴力だ!
それが政治の本質なのだ!!
それに気づかぬ愚劣な大衆は踏みにじられ続けるがいい!!
だがおれたちは違う!!
おれたちは自分たちの世界を作るために牙を振るうのだっ!!
(『野望の王国』完全版4巻P598-599)
おまけ
検索でひとつしか引っかからないってどういうことなの・・・
by 木戸孝紀
tags:コミック ネタ 政治 野望の王国